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はじめての同人誌 ~『鉄道とデザイン Vol.3』執筆後記~

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あべっちチューブ先生からのお誘いもあって、同人誌に寄稿しました。あくまでも雑誌形式の本の中の1記事に過ぎないとはいえ、思考のプロセスなどどうやってこの原稿が出来たのかを整理しておくと自分のためにもいいだろうなと思ったので、(宣伝・見どころ紹介も兼ねて)つらつら記していこうと思います。

 

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”デザイン”と私

まず第一に考えたのがテーマ選定です。私・あべっち先生の他にも6名が執筆するとあって、一人だけ露骨にクオリティが低下する事態は避けたいものでした。一方で、私はいわゆる「デザイン」について全くの門外漢であり、例えば車内で使用されているフォントであったり座席のモケットの織り方であったりということを論じるのは無理だろうと当初から思っていました。とはいえ、電車オタククンの端くれとして、鉄道に関する愛を直球でぶつける舞台が与えられたのならば、それに応えないというのは無作法というもの。そこで思いついたのが「ジョイフルトレインの変遷」でした。

 

ジョイフルトレインと”デザイン”

ジョイフルトレインや観光列車にスポットをあてた書籍・記事は以前から散見されるものでしたが、その多くが個別事例集というかあまり体系的でない印象を感じていました。なぜジョイフルトレインは衰退したのか、その中で現在も生き続ける魂はどこに息づいているのかといったことを、要素別に・全時代的に取りあげていくことには結構意義があるのではないかと思いました。折しも最後のお座敷列車”華”の引退も重なり、かなりタイムリーな話題になったのではないでしょうか。

ただ、過去のものについて何かを論じるとなってかなり重大な問題に直面しました。それは写真が手元に全然ないことです。90年代までに散っていったものは勿論のこと、割と近年まで走行していた列車にも乗ってないし写真もないんです。ビックリ。手持ちのリソースで本文の中身とどう合わせていくか、そのすり合わせに非常に苦労しました。第1節でリゾート21について語るパートがあるんですが、「眺望がイイよね♡」って話をしているのに挙げられているのがおもくそトンネル走行中で眺望もへったくれもない画像であるとか、イマイチ盛り上がりに欠ける写真が多いかと思われますが、権利的に問題ないものを遵守した結果がこれであることをご理解頂けると幸いです。こういった局面において、文意に即した挿絵を描けたらより見ごたえのある記事になったのかもなと思うと、お絵かきスキルを磨きたくなる訳です。

越乃Shu*kura”の車内画像。写真があってもコンセプトが伝わりにくいと記事には使えなかった

他方で、文献探しは思ったより苦労しませんでした。古本屋やら図書館やらで見つけた昔の鉄道ファン・鉄道ジャーナルなどを発掘したのはもちろん、存在すら知らなかった国鉄・JRが編集した書籍などもあったりして、様々な視点からジョイフルトレインを望むことが可能になりました。RMM誌290号で「ジョイフルトレインというワードは当時の趣味誌だとあんまり浸透していなかった」といったことが述べられていましたが、オフィシャルな書籍と雑誌を見比べて「あ、マジで「ジョイフルトレイン」って使われてなかったんだな」と認識できました。時の運も絡むとは言え、文献を探すのは資料撮影よりかは遥かにラクなはずです。論文書くわけじゃあるまいし。

 

それと、本当に予めお伝えしなければならないのが「この記事においては外観や内装といったデザインよりも、運用形態や売り込み方などの商品としてのデザインに主眼を置いたものである」という点です。なぜかと言うと、ジョイフルトレインの本質や商品価値は「のってたのしい」事である以上、外装といった車体デザインでそれらを絶対的に評価し、優劣をつけること自体がナンセンスだからです。あと、単純に私が一介の鉄オタに過ぎず、そもそも外装の芸術性に対する適切な語彙を有していないというのもあります。本稿においては、装飾・塗装はあくまでジョイフルトレインを構成する一要素にすぎず、それが全てではないことをご理解いただけると幸いです。みんながいいと思ったジョイフルトレインがナンバーワンなんです(適当)

 

時間と、鉄道と、デザインと、私

Vol.3の編集中原稿を見させてもらって感じたのが、時間の経過で広がっていった多様性に着目したものが多いなあということです。様々なジャンルの流行り廃りがあって、環境や思想の変化に翻弄されて今ここにあるものを、改めて見つめてみるというのがある種Vol.3全体に流れているテーマなんじゃないかなと思います(私個人の感想であり、かぼちゃ工房ならびにあべっち先生の意図とは異なる場合があります)。そんな中でも、ジョイフルトレインをこういった文脈で読み取ってみるという例はあまりなかった気がするので、書き手としても読み手としても新鮮でよかったんじゃないかな。

 

『鉄道とデザイン』が時代を越えて存在する「何かを伝えたい」という思いがどのように表現されてきたのか、デザインに対して求められてきたものの変化を含めて考えてみるきっかけになると嬉しい限りです(私個人の感想で、サークルの総意ではありません)。

shosen.tokyo

 

おまけ:本編で使えなかった画像

リゾートしらかみ”の取材したかったんですが、件の大雨で千畳敷駅周辺が運休状態になってしまいまして。手持ちの画像が2015年の初代橅編成の上野駅での展示イベントのものしかなく、画角も微妙だし車窓も日本海じゃなくて台東区だしボツにしました。12月末に復旧するとのことで、今度こそ乗ってみたいものです。